京都 空き家問題・対策

東福寺にほど近い京都市東山区の閑静な住宅街。木造家屋の密集地や細街路が目立つ今熊野学区では今から10年前、世帯数の1割弱に上る約170軒もの空き家があった。  「相続人がいない、先祖代々の家を手放したくない、近所の目を気にして売るに売れない…。一軒一軒に違った事情と感情がある」。学区で空き家対策のNPO法人を立ち上げ、相談に応じてきた石井良之さん(78)は、所有者の苦しい胸の内を代弁する。  NPOでは相談者を専門家につないで売却や活用を後押しし、空き家数は現在130軒程度まで減少したという。直近でも路地奥の物件を移住希望者に売却できた事例があったが、「新しい空き家は次から次へと出てくる」のが実態だ。  市は2026年にも導入する「別荘・空き家税」で中古物件の流通を狙うものの、家屋評価額や家庭事情などの条件から非課税となる物件も多い。石井さんは「空き家問題を考える契機にはなるが、今熊野学区でも非課税の物件が多いだろう。空き家解消を目指すなら、税収を物件の購入補助金に充てるなど、住んでくれる人への支援が必要だ」と訴える。 ■「売るに売れない」悩み  京都市の「別荘・空き家税」は所有者に空き家の活用を促し、住民を呼び込むのが狙いだが、非課税の物件には効果がない。別荘などとして使われる高級マンションは税負担が重くなる一方、防災上の課題になるような老朽木造空き家は「家屋の固定資産評価額が20万円未満」(固定資産税非課税)で、免税になる物件が多数を占める。  固定資産税データに基づく市の調べでは、住民票上は居住者がいない戸建て約4万2千戸のうち、評価額20万円未満の物件が約3割を占めた。うち9割以上は1950年以前から建つ木造住宅。他の大都市のような大規模空襲を受けなかった京都市内は戦前の建築物も多く、大多数は課税対象外になる見込みという。 あわせて読みたい 京都市が導入目指す「空き家税」居住チェックは「人の目」 課税の判定基準は? 京都の空き家、改修して運用で収益も 課税という「ムチ」で市場拡大なるか  さらに市は導入後5年間に限り、家屋の評価額100万円未満(固定資産税など年1万7千円未満)も非課税とする。高度成長期に郊外で建てられた狭小な住宅が空き家化する傾向にあり、所有者が「売るに売れない」悩みを抱えているためだ。市税制課は「これらが中古住宅の流通に乗るような環境整備を市が進める期間として、5年を設けた」と説明する。  売りたくても売れない、不動産業者もビジネスとして扱うのが難しい―。このような非課税物件にこそ、空き家の多様な問題が凝縮されている。特に京都ならではの課題とされるのが、路地沿いの古い空き家だ。  路地奥の物件は「接道義務」を満たさず、多くが「再建築不可物件」に該当する。市は昨年度から建て替えの許可要件を緩和し、可能になる物件には市のお墨付きとして「路地カルテ」の発行を始める予定だが、これまでは購入者が融資を受けづらいといった課題があり、中古市場での流通は進んでこなかった。  路地の空き家再生に動きだす民間事業者もある。不動産の「八清」(下京区)は昨年、市中心部の袋地で、再建築不可物件を新築住宅に生まれ変わらせた。同じ路地に面する2軒の所有者と協議し、複数物件が一つの敷地にあるとみなす建築基準法の「連担建築物設計制度」を適用することで、3軒の建て替えが可能になったのだ。同社会長の西村孝平さん(72)は「再建築不可物件は土地代が通常より安く、若い人も買いやすい。安心して子育てができる路地を懸命に再生すれば若者も残ってくれるだろう」と期待する。  空き家を巡る課題が山積する中、2026年にも始まる新税。税収を観光関連に充てる法定外目的税の「宿泊税」(18年度施行)とは異なり、新税は法定外普通税で使途は特定されておらず、市税制課は「空き家の活用につながるような使い道を今後検討する」とするにとどまる。新税の有識者会議で委員も務めた西村さんは語気を強める。  「税収が今後、何に活用されるのか。本当に空き家のための税金になるのか。チェックが必要だ」

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